工学系統とは?
工学は人間生活への応用を探る、実用的な学問である。モノづくりを通して、わが国の未来を担うエンジニアの育成を担っている。
●学科の再編、新分野の学科誕生が急ピッチ
機械工学関係
技術革新の基盤を担う機械エンジニアを養成
機械工学関係の学科では、基礎を深く学ぶとともに、その応用と組み立てから、さまざまな製品やシステムを創成し、運用していく知識と技術について学ぶ。
機械工学科が代表的な学科で、精密機械工学科、精密工学科の歴史も古いが、近年は、別の領域として扱われてきた電気工学や電子工学などとの境界領域や、学際領域についての研究も活発になってきた。機械システム工学科、機械知能工学科、知能機械工学科、機械情報工学科、ロボティクス学科、ロボット・メカトロニクス学科などが相次いで誕生。電気・機械工学科や機械・電気電子工学科なども登場した。
また、応用分野として、航空宇宙工学科、交通機械工学科など航空工学や交通工学に関する学科も設置されている。
電気通信工学関係
現代の高度技術社会や情報革命時代を支える
電気通信工学が対象とする領域は、急速なスピードで広がりつつある。代表的な分野は電気工学、電子工学、情報工学、通信工学などである。しかし近年は、これまでの細分化されていた領域を融合、統合し、広い視野に立って総合的に電気通信工学を教育・研究しようという動きが目立ってきた。
とりわけ、学際領域や、境界領域の学問分野に対応するため、電気電子工学科に衣替えするケースが目についており、情報工学科、電気電子情報工学科、電気電子システム工学科、情報システム学科、情報システム工学科、電子情報工学科、情報通信工学科、知能情報学科などが多くの大学におかれている。
最も急速に発展し、重要度を増しているIT技術を支える分野だけに、今後もさまざまな学科が誕生しそうだ。
土木建築工学関係
土木と建築を主軸に新技術に対応
土木建築系の学科は、土木工学、建設工学、建築学の3つに大別され、さらにそれらを複合した学科もある。最近は土木、建設、建築をそれぞれ単独の学問分野とはせずに複合的にとらえ、地球規模の環境問題までを視野に入れた研究に力を入れる大学も多い。
土木工学は市民生活に密着した学問で、主に社会生活に必要なさまざまなインフラを計画し、作り、管理するといった一連の技術体系を扱っている。歴史の古い学問分野だが、学問の進展に伴い社会環境工学科、土木環境工学科などに改組する動きが盛んになった。同様に、建設工学科も改組が進んでいる。建築学は、住宅や都市空間の計画、設計を行い、快適な建築物を造るための学問。建築学科が代表格だが、建築には芸術的側面もあることから建築デザイン学科としている大学も多い。ほかに建築工学科などもおかれている。
また、土木工学科と建築学科を統合・再編し、快適な都市環境を創造する学科が増加しているのも最近の傾向だ。都市工学科、都市システム工学科、建築都市デザイン学科などでは、計画、設計、施工に関する技術だけでなく、防災や住みよい環境の整備が課題になっている。最近は、まちづくり学科、まちづくり工学科なども登場した。
応用化学関係
化学の成果を工業に応用する技術を学ぶ
応用化学は、化学を基礎とした学問分野で、「モノを作る」「モノの性質を調べる」「モノを工業的に生産する」という3つの分野が柱になっている。応用分野はきわめて幅広く、生命科学やエレクトロニクスにまで及んでいる。特にバイオテクノロジー関連と、新しい機能を持った物質の創出については、期待と注目が集まっている。
最近は、新素材や機能性物質を創り出す技術に着目した学科が増加傾向にある。環境問題とエネルギー問題の解決が迫られているため、化学の役割は重要性を増しており、新しい材料と技術の開発が待たれている。代表的な学科は応用化学科で、化学の成果を工業技術に応用するための理論と技術を修得させ、化学工業を支える技術者や研究者の養成をめざしている。このほか、化学工学という方法論を用いて新しい化学システムを創造する化学システム工学科、環境調和型のモノづくりに挑戦する化学バイオ工学科、グリーンケミストリー(環境への負荷が少ない化学)を土台として新物質を開発する物質化学科、環境に優しい科学技術や機能性物質の開発する環境応用化学科、有機化学と生命工学の融合による新物質・新機能の創造をめざす化学生命工学科などが登場した。いずれも化学を基盤とした新分野の創成をめざした内容だ。
材料工学関係
今日の科学・文明の発展に大きく貢献
日用品、工業製品、医薬品などすべての産業分野で欠かすことのできないのがさまざまな材料だ。これら多様な材料について製造、プロセス、構造、性質、材料設計などに関する理論と応用を研究するさまざまな学科がおかれている。
中心となるのは、材料工学科と機能材料工学科だが、材料の性質に的を絞った学科や、金属材料を主体とした学科などもおかれている。マテリアル工学科は、金属、セラミックス、高分子、有機材料などの基盤材料から、半導体、電子材料、生体材料・分析、触媒材料などの高機能材料までを幅広く取り扱っている。
生物工学関係
バイオテクノロジーを基盤に応用領域に挑む
ここ最近、めざましい発展を遂げているのが、遺伝子を中心とした生命科学である。生体における調節、制御などの機能も分子や細胞レベルで解明されるようになってきた。
医学、理学を基盤とする学科も数多く設置されているが、工学系統にも生物工学科や生命工学科、生命化学科、生命医化学科、化学・生命化学科、生命・応用化学科など多彩な学科がおかれている。
応用理学関係
数学・物理学を基礎に最先端の分野を研究
応用理学関係の特徴は、特定の技術分野を対象とするのではなく、あらゆる分野を横断的に研究する点である。数学、物理学、化学、生物学など多岐にわたる理学が、学びの基礎となっている。
応用物理学科が主役で、新しいテクノロジーやシステムの基本となる原理や技術を、物理学の成果と研究手法を用いて創造できる人材の育成をめざしている。現代のテクノロジーの基礎となっている計測・情報工学、光工学、物性物理学、新しい複雑系の物理学や応用数学についての多くの科目を幅広く学べる。このほか、物理に関連する知見を基に、機械システム、材料、エネルギー、宇宙空間活動などに関する新しい科学技術の研究開発を行う物理工学科、物理と数学を基盤とし、そこに先端工学の特徴である自動化、情報化、システム化を取り入れた物理情報工学科などがおかれている。
経営工学関係
工学系・社会科学系などの基礎科目を重視
経営工学は、工学系統の学科の中では異色の学問分野だ。社会科学系統に含まれる経営学との大きな違いは、経営学が経営論を基礎として生産現場からは離れたところから経営を考えるのに対して、経営工学は製品が作られる現場にポイントをおいている点にある。
ただ最近は、経営管理や情報処理分野にも重点をおく傾向も見られる。経営学に関係した科目、数学系や情報系の科目も開講され、工学的手法を用いて経営を化学できる新しい産業人の養成をめざしている。
経営工学科、管理工学科が伝統的な学科だが、近年は経営システム工学科が主流になった。経営システム工学科では、統計技術、数理技術、情報技術、システム技術をバランスよく学び、情報技術に精通し、さらに経営科学や経営管理技術を基にプロジェクトやプロセスの管理ができる情報マネジメントエンジニアの育成をめざしている。
デザイン工学関係
技術に裏打ちされた工業デザイナーを育成
デザインに関する学科は芸術系統におかれるケースが多いが、工学系統におかれている学科では都市空間、建築物、情報伝達媒体、工業製品などを対象として、技術に裏打ちされた芸術性豊かなデザインの教育を行っている。
デザイン工学科のほか、デザイン科学科、感性デザイン工学科、情報デザイン学科、創生デザイン学科などがおかれている。
その他
学際的・複合的分野を中心に未来派がズラリ
工学系統には、実に多彩な学科がおかれている。地球資源や海洋資源の開発をめざす資源開発関連の学科、あらゆる物質について科学的基礎を学ぶ物質工学関連の学科、人々の生活と健康を守り快適な生活環境を作る環境工学関係の学科、複雑・大規模な工学的問題をシステムとしての観点から解決するシステム工学関係の学科など、ますます期待が高まる新しい分野の学科が目白押しだ。
また、最近になって増加しているのが細分化された学科を統合改組した理工学科、工学科などで、共通する基礎的な教育を履修したのち、高学年で専攻やコースに分属して専門性を高めていくシステムが取られている。
自然科学の研究成果を人間生活に応用
理学系統の学部・学科が真理を探究するものとすれば、工学系統の学部・学科は価値を創造するものといえる。価値とは、われわれの生活を豊かにする工業製品のことだ。近代工業の作り出す「新しいモノ」は、われわれの生活を豊かで快適にしてくれる。しかし、工業製品は最高レベルになってもこれで終わりというものではない。さらに改良された工業製品を創造し続けなければならない。エンジニアに寄せられる期待と要求は極めて大きく、世界をリードするエンジニアの養成を担っているのが工学系統の学部・学科だ。
中心となるのは工学部で、数多くの大学におかれ、最先端の研究成果を実際に社会に役立てるという実学を重視した教育を行っている。学科は機械工学、電気通信工学、土木建築工学、応用化学、材料工学、生物工学などのジャンルに分けられるが、工学のほとんどの分野を網羅している大学から少数の学科で構成される大学まで学科数はまちまちだ。例えば、東京大は社会基盤学科、建築学科、都市工学科、機械工学科など16学科をおいているが、大阪大は細分化した学科を統合・改組して応用自然科学科、応用理工学科など5学科構成だ。
工学部に次いで多いのが理工学部。理学部と工学部の複合学部で、工学系の学科のほかに理学系の学科も含まれている。最近は、理学部と工学部を統合したり、工学部を理工学に改組するケースが増加傾向にある。
このほか、特定の分野に的を絞った学部として基礎工学部、情報理工学部、生命工学部、産業工学部、芸術工学部など多彩な学部がある。
専門分野を融合させた学際的なアプローチ
工学は自然科学を人間生活に応用する学問である。そのため、社会の発展に応じて解決すべき問題や要求される技術が変化すると、当然その学問の種類や内容も複雑に分化する。また、学際領域や境界領域などといわれる学問分野の発展に対応して細分化された学科を再編成し、統合・改組する動きも目立っている。
工学は、年々進歩発展しており、学問の高度化が著しい。そこで、大学の工学部では基本的な部分しっかり身につけさせ、高度な応用部分は大学院に進んで履修させるようにもなってきた。
例えば東京工業大学は2016年4月に、学部と大学院を統合して、従来の理学部、工学部、生命理工学部を、理学院、工学院、物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院に再編。1年次は専門に偏りすぎずに幅広く学び、2年次以降は機械系、電気電子系といった系に所属して専門分野を履修。卒業後は大学院に進学して、さらに細分化したコースで専門分野を究める。
今後は専門分野を融合させた学際的アプローチがますます必要になることから、産業や社会のニーズに対応した、斬新かつ期待の大きな学科が誕生するに違いない。
就職先●メーカーなど多彩だが大学院進学も多い
電機、機械、自動車などの基幹産業からベンチャー関連の企業まで幅広く就職している。大学院に進む者の比率も高く、とりわけ国公立大や有名私大では大多数が進学する。
進学の基礎知識
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